2024年秋ドラマ「潜入兄弟~特殊詐欺特命捜査官~」の主題歌は、omoinotakeが歌う「ラストノート」。ラストノートとは勉強に使うノートのことではなく、香水の香りを表す用語だ。人の心の苦しみや葛藤を香水に例えて歌った一曲となっている。
「ラストノート」感想
歌のテーマ
歌の全体的なテーマとして、このようなものが思い浮かぶ。
- 嘘や見せかけ
- 本当の自分を見失う
- 葛藤
- 理不尽な過去
この曲を聴いたときまず印象深く残るのは、冒頭の突き抜けるような高音。
「ありのまま生きる」たったそれだけが
できない僕らは 泣きたいのに笑う
出典:omoinotake「ラストノート」(作詞:福島智朗・作曲:藤井怜央/2024)より
ドラマは、父親の命を奪った犯罪組織に復讐するため、兄弟が命がけで潜入していくというストーリー。
歌の中では他にも、「欺く」や「嘘」のような歌詞がよく出てくる。周りを欺いて生きていくしかない兄弟の悲しみともリンクしている部分だ。
歌の主人公である「僕」は心に傷を負っており、それを紛らわすために自分の感情すらも欺きながら生きている。
もしかしたら、悲しみを隠そうとして他人の前では無理に笑ったりしているのかもしれない。自分の本音を言えるほど信頼できるような人が、周りにいないからだろうか。
本音を言うことは、時と場合によっては嫌悪されることもある。社会で生き抜くためには、時として演技や愛想笑いを身に付けなければならない。
このように、”ありのままの自分”で生きることができなくて悩み苦しむ様子が歌から感じ取られる。
人は見せかけに騙される
普段から本音を見せないで生きている「僕」。人には裏表があるということを悟っているようだ。
誰も裏の顔を知らない月
表面ばかり見て「綺麗」だねと決めつけきってる
出典:omoinotake「ラストノート」(作詞:福島智朗・作曲:藤井怜央/2024)より
月を眺めるとき、大体の人が綺麗だなと思いながら見ているだろう。だが、月の裏側がどうなっているのか、意識したことのある人はいるだろうか。
「僕」は自分にも裏表があると自覚している。だからこそ、見た目だけでは分からない裏の顔を、周囲の人間も持ち合わせていることに気付いたのだろう。
見せかけに騙されることの多い世の中。自然体で生きていくことは難しく、多くの人が様々な人物を演じながら生きている。SNSを見ていると、外見を取り繕いたい人や見た目だけで判断するような人が多いように思う。
人の裏表を「月」に例えたこの部分からは、見せかけに騙されることの多い今の世の中に対する思いも含んでいるように私は感じた。
ラストノートとは
いよいよタイトルの「ラストノート」について考察してみよう。ラストノートとは香水の香りのことだ。webサイトを参考に、それぞれの香りの種類についてまとめてみた。
・トップノート:香水を肌に付けてから最初に感じる香りで、香水の第一印象を決める役割を担う。
・ミドルノート:香水本来の香りで、付けてから約30分〜2時間後に香る。
・ラストノート:つけてから約2時間後〜消えるまでの香り。
参考:香水のトップノート・ミドルノート・ラストノートとは?香りの変化を楽しもう|編集部コラム|STAFF DIARY|香水メーカー公式通販サイトFITS ONLINE STORE
ラストノートは、香水の香りの中でも一番最後に広がる香りということが分かった。ここで、1番の最初で出てくる「シトラスの匂い」に注目してみた。
香水のことだろうが、何か深い意味がありそうな気がする。どうやら、シトラスのような爽やかな香りはトップノートに使われることが多いらしい。
第一印象となる香りで、付けてからはあまり長持ちしないというシトラス。このことから、見た目を取り繕うことを意味しているのではないかと思った。
すべてがいつか 揮発したあと
最後に消えないで 僕の願い
出典:omoinotake「ラストノート」(作詞:福島智朗・作曲:藤井怜央/2024)より
嘘や取り繕いが全て崩れ去ったとき、そこに残るのは本当の自分のみだ。ラストノートとは「僕」の本心を表すのではないだろうか。
「僕」は、本当はありのままの自分で生きていくことを望んでいるのだ。
それにも関わらず、本当の自分を見せることができない「僕」。自らそうすることを選んだのか、はたまた周りの状況がそうさせたのか。
社会に出ると、自分の本音は隠しておかなければならないと感じる場面が多くなる。特に仕事においてはそのような場面が多い。
例えば、就職活動では良い第一印象を与えるために、とにかく自分のプラスな面をアピールしていく必要がある。マイナス面については言及せず、聞かれれば上手い言い訳でごまかさなければならない。
会社で働くときも、”善良な社員”を演じることで自身の評価を高めたりするだろう。友達と付き合うときでさえ、”良い友達”を演じているかもしれない。
生きていく上で、多くの人が本当の自分を包み隠し外見を取り繕っている。この歌の主人公は、そのような生き方に疑問を持ちながらも、生きていくためには必要だと割り切っている面がある。心の奥底には本当の自分は見失いたくないという願いがありつつも、実際は取り繕った生き方をやめることはできない。こうした生きていく上での葛藤を歌では表現しているように思う。
ありのままで生きるということ
「ラストノート」は、取り繕うことでしか生き抜いていけない悲しみを香水になぞらえた歌だった。ふんわりと漂う香水の香りがしてきそうなこの歌は、綺麗な高音ボイスも相まって繊細な印象を受ける。
今の世の中には、完璧を求める空気のような、何か緊迫したものを感じる。誰もがありのままに、のびのびと暮らせる日がやってきてほしいものだと思う。