2024年秋ドラマ「ライオンの隠れ家」の主題歌は、Vaundyが歌う「風神」。家族愛を通して”愛の掛け違い”を描くドラマとなっているが、その主題歌も人間関係の痛みやぬくもりを歌った一曲となっている。考察していく中で、人間関係に悩みを抱く現代人なら誰もが共感できる内容になっていることに気付いたので、説明していこう。
「風神」感想
歌のテーマ
ドラマは二人暮らしをするとある兄弟のストーリー。自閉症スペクトラムの弟を支えながら一緒に暮らす兄が主人公だ。ドラマの中で「僕たち兄弟は凪のような生活を送っている」というセリフがあったが、主題歌「風神」は人間関係について風をモチーフにして歌っている。作詞作曲したVaundyはこう語っている。
「風神」は、誰しもがもしかしたら風をまとっていて人と人とが向き合ったときにその風でできていく擦り傷が、ただ痛いだけのものではなくぬくもりを持った温かかな痛みでもあるよね、ということを歌った曲です。
出典:お知らせ|TBSテレビ金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』
人と人は傷つけ合いながらも心を通わせていくものだ、ということが歌におけるテーマなのかもしれない。人間関係の悩みというのは生きていれば誰しもがぶち当たる試練だ。「風神」は人間の普遍的な悩みについて切り込んでいく曲となっている。
思考と心
大脳の意思では 静観がキメの一手なんだって
だが心臓が言うには 芽吹けば栄養さ
出典:Vaundyの「風神」(作詞・作曲Vaundy,2024)より
一番と二番の歌詞で出てくる「大脳」と「心臓」というワード。一体何を表しているのだろうか。脳は「思考」をつかさどり、心臓は英語で「ハート」と言う。このことから「大脳=思考」「心臓=心」としてみる。
中々ぱっと解釈することに難しさを感じる言い回しだ。歌の全体的なテーマとしては、人と関わっていく中で生じる痛みというものがある。静観とは行動を起こさないで静かに観察しているという意味だ。この歌の主人公「僕」の頭の中では、人と関わることで自分が傷つくくらいなら誰とも関わらずにいるべきだ、という考えがあるのだろう。
頭ではそう考えている一方で、心はどうだろうか。「芽吹けば栄養さ」の芽吹くとはつまり、人間関係を築き上げるということだと思う。豊かに生きていくためには人間関係が必要不可欠である、と「僕」は心の中で思っている。人と向き合っていく上で傷つけ合うことがあったとしても、誰かを想うことで得られる喜びは何物にも代えがたいからだ。
このように、人と深く関わっていくか否かで「僕」の中には葛藤があったことが分かる。心と頭が一致しなくて苦しいといった体験は誰でもあるのではないだろうか。このパートからはそういった自分の中にある矛盾に苦しむ様子が感じ取れる。
”風”が指すもの
歌において最も重要なキーワードといえる「風」について掘り下げてみよう。これまで書いてきたように人間関係の痛みや喜びがこの曲ではテーマとなっており、それを風でできた擦り傷に例えている。「風をまとう」とは、コミュニケーションにおいて傷つくことを恐れるが故の武装なのではないだろうか。それは、相手に対し鋭い言葉を投げかけたりすることだと考えられる。風神といえば「風神雷神図屏風」が有名だが、この曲を聴いていると風神と雷神が向き合っているあの構図が思い起こされる。
もしもこの世の隙間に 愛を少し分けられたなら
それでこのぬくもりに 隙間風も凪ぐだろうか
出典:Vaundyの「風神」(作詞・作曲Vaundy,2024)より
曲がフィナーレを迎える手前、突如出てきた「隙間風」というワード。窓や扉の隙間からヒューヒュー吹いてくる、冬だと妙に寒く感じるあの風のことだが、実はもう一つ別の意味があったようだ。
すきま‐かぜ【隙間風】
1壁や障子などのすきまから吹き込む風。
2人間関係にへだたりができることのたとえ。
出典:「隙間風(スキマカゼ)」の意味や使い方 わかりやすく解説|Weblio辞書
ここでは2つ目の意味合いが強いだろう。「隙間風」とは人間関係のへだたりのことを言っていると考える。人と人が関わり合う中でお互いを思い合うことができたなら、人間関係における問題も少しは和らいでいくのではないか、とここでは伝えたいのではないだろうか。
”愛”とは恋人同士のものに限らず、家族や友達や関わり合う全ての人に対する思いやりの気持ちだと思う。人間関係とはときに苦しく、ときに心をあたたかく満たすもの。
仕事においても人間関係は非常に重要で、働きやすさは一緒に働く人次第なのではとさえ思えるほどだ。職場関係の悩みは誰もがぶつかり得る壁だと思うが、少しの思いやりや気遣いの心を持つことで、人と接する上での苦しみは和らいでいくのではないかと常日頃感じている。
人間関係が深くなっていくにつれて、心が通じ合うことへの喜びも大きくなっていく。だが人間関係とは綺麗なだけではない。ときに自分の嫌な面と向き合わなければなかったり、相手の悪い一面を目の当たりにしてしまうこともある。
そういった中でお互いに傷つけ合い相手との関係性が壊れてしまったときなどは、深く傷つき人間関係の難しさに頭を抱えるだろう。だが、人と深く付き合っていくことで愛情に目覚める。心が通じ合う喜びは何物にも代えがたく、人生を豊かに満たす。たとえ傷付くことがあろうとも、人は人との関わりを求め続けるものなのだ。
人間関係はときに苦しく、ときにあたたかい
Vaundyの「風神」は、誰しもが抱える人間関係の悩みに切り込んだ一曲だった。改めて人間関係とは難しいものだと感じる。だが、人と関わり合うことでしか得られない喜びがあると思う。痛みとぬくもりの間で葛藤しながらも、人は人を求め続ける。そんな普遍的な悩みを描いたこの歌に共感する人は多いのではないだろうか。
「海に眠るダイヤモンド」主題歌についても書いてみました。→ ありふれた中にある幸せ。King Gnu「ねっこ」